にゅうめん(温かい汁そうめん)

 関西以外でそうめんを温かくして食べるというのは、あまり聞かない。沖縄のソーミンチャンプルーぐらいなものだ。にゅうめん、温かい汁そうめんといえば関西の食べ物だろう。

 とうぜん『吉兆味ばなし』にも、にゅうめんのレシピが出てくる。

 ざっくり説明すると、まずはツユを作っておかないと始まらないようだ。それからそうめんを茹でて洗い、ツユで下煮する。そのそうめんを椀に盛って、ツユを注ぐ。

 

 ツユで下煮するというのは、そのままでは水っぽくて味にならないからだそうだけど、実態は違うと思う。

 

 モノノホンによれば…アカデミックな研究著作でなく在野の人がアカデミックな手続きに従わずに出した本なので、モノノホンとしか言えない。そのモノノホンによれば、関西において麺とは汁物の具なのだそうだ。

 そう言われれば確かにそうだ。関西ではウドンにしろラーメンにしろ、ヨソの地域に比べてつゆ、スープの量が妙に多い。そして関西の麺類に付き物が白い米飯である。関西の麺類が麺料理でなくスープなのだとすれば、確かに白い米飯というのはアリだ。

 また「おだまき蒸し」なんてものがある。これはウドンの入った大ぶりの茶わん蒸しなのだが、茶わん蒸しの具がウドンというのは、麺が汁物の具だということであれば確かにありそうなことだ。

 

 関西でそうめんといえば、まず揖保乃糸ということになる。しかし最近あまり売れず苦戦しているようで、揖保乃糸ブランドで中華麺を出したり、迷走気味に見える。

 実は揖保乃糸は作り方がにゅうめんに特化している。こまかい空気の泡を練り込むのだそうだ。これによって麺は汁を吸いやすくなる。

 

 ところが現代の味覚からすれば揖保乃糸は捉えどころのない食感で、どうにも冴えない。私だって普段は長崎・島原のものを使う。これはツルツル感が強く、きちんと歯ごたえがある。

 つまり揖保乃糸というのは、にゅうめんに特化しすぎたそうめんなのであって、現代人がそうめんに求めるツルツル感と歯ごたえに欠けるのだ。なにより値段が高い。6把200グラムで島原が税別198円ぐらいなのに、揖保乃糸は安くても税別298円する。

 

 島原のそうめんであってもツユの味を強めにしてきちんと煮込めば、にゅうめんとしては成立するもの。わざわざ高い揖保乃糸を使う意味はないし、他の料理へ転用しにくい。島原とかでいいよ。